[解説:網元メタルマスター] ここに1枚のCDがある。赤のジャケット。そこに書かれているのは、アルバムタイトルとバンド名のみ。シンプル。いささか装飾過多なジャケットデザインが氾濫している現在のシーンにおいて逆に意表を突かれた格好である。彼らはいったい何者なのか・・・?2005年の3月、またひとつ‘名盤’と呼べるに相応しいアルバムが誕生した。それが本作、バースマークのデビューCD-R、‘BREATHLESS’である。
彼らは主に上越エリアを中心とした活動を続けている。メンバーは以下の4名。布施 泰(Vo&G)、瀬戸 秀市(G)、山田 努(B)、東條 優二(Dr)。その歴史は古く、結成は1994年の12月であったというから、もう11年目に入っている。そもそもは、布施、廣瀬がメンバーでいたFOUR ROSESというバンドが、バースマークの母体であるようだ。このバンドはその後メンバーを変えZETTON(ゼットン)というバンドに姿を変え、なおBの抜けた穴に山田が入り、さらに山田と以前プレイしたことのある東條がDrの抜けた穴に入り、現在のバースマークの形が出来上がった。
彼らバースマークの魅力は、何よりもまず布施の力強いボーカルであろう。ロニー・ジェイムス・ディオ、ポール・ディアノなどに影響を受けたと聞くその魂のシャウトは、それだけで僕らを‘バースマークの世界’にぐいぐいと引っぱって行く力を持っている。さらに廣瀬の的確なギター・ワーク、山田、東條のリズム隊、どれをとっても少々クサい言いまわしではあるが‘ガッツでタフ!’これに尽きる。加えてやはり曲がよい。そして彼ら自身が自分たちのナンバー1曲1曲をいかに手塩にかけて育てていったのかが聴いていてわかる。収録されている4曲とも実に‘プレイし慣れている’感じの曲ばかりだ。そして歌詞。このアルバムに入っている曲はどれも実際に布施が体験したり、あるいはTVのニュースで見たりした事が基になっている。彼は先に言いたい想いがあって、それからメロディーを考えるタイプの様だ。
以前、布施とメールのやりとりをしていた時、彼は‘「俺達の作る曲」即「俺達の聴きたい曲」という事を思って曲作りをしています。’と言っていた。なるほどな、と思った。そう、彼はいい意味で‘ワガママ’いっぱいに自分の言いたい事、表現したい事をすべて詰め込んでこのアルバムを創ったのだ。彼にとってHM/HRとは自己表現の場なのである。
かつてロック、とりわけブリティッシュ・ロックはロックというフィルターを通した自己表現の場であった。ゆえに数限りない実験的・革新的バンドが存在した。1970年前後位の話しである。彼らの多くはその作品を「クラブ」という誤魔化しのきかない空間で表現し、彼らなりのメッセージを込めたアルバムジャケットに包み、発表した。バースマークの今までの活動をみると、その当時のまだ若かったブリティッシュ・ロックの1連の流れをみてとれると共に、自分と言う存在をしっかり見すえた姿勢が感じられる。はたして今、この様な‘いいたい事があるから曲を創る’バンドがどれ位あるのだろうか。
アルバムの音質は、はっきり言ってあまりよくない。だが、そのような事を忘れさせてくれる程のすばらしい内容で興奮の連続だ。
僕は彼らには悪いが、このアルバムを興味本意や知ったかぶりの人には聴いてほしくない。というか、布施が言っていた「俺達の聴きたい曲」HM/HRファンだけが入る事を許される‘その世界’を荒らされたくない。というのは僕のワガママだろうか・・・。ともあれこのあるアルバムはある意味で聴き手を選ぶのだ。そして、そう、彼らの音を本当に理解したければ、心を開き、詩をじっくり読んで正面から向き合って聴いてほしい。そうすればあなたも自然とバースマークの世界に入り、彼らからパワーをもらうに違いない。とかくテクニック指向、様式美追及の如き感じの現在日本のHR/HMシーンにひさびさに現れた地に足のついた、パワーメタルをプレイする感動のバンドだ。彼らの今後の活躍に注目したい。
布施 泰(Vo&G) 瀬戸 秀市(G) 山田 努(B) 東條 優二(Dr)
|